〈作家コメント〉
ここ数年、私は、石で起こしたかたちをブロンズに置き換えるという制作手法をとっている。彫刻はもともと可変性のある素材で形態(原型)をつくり、そこからより持続性の高い素材に置き換えることによって発展してきたのであるが、今日強固な素材として考えられている石材は、ギリシャにおいてはブロンズによって制作されたオリジナル作品のコピー素材(代替)であり、紙のように転写し大量に消費される素材であった。
《カフェのテーブル》という作品は流動的な形態を床面に敷き詰めたコーヒーのアロマの中に埋めたインスタレーション様作品である。今回の二次作品は、延長として、支持体を床面ではなく壁面へと移し、視線を変容させる目的がある。覆い隠されていた作品の輪郭は顕(あらわ)になり鏡面磨きされたブロンズの質感のみが眼前に現出する。「石で起こしたかたちをブロンズに置き換えるという制作手法」すなわち「オリジナルのリ・プロダクト」はどのような意味を持つのか?このリプロダクトという語彙については近年、アンティークデザイン家具の売買において長らく復刻やコピー、再販という意味で誤用されてきたことが指摘されている。
“3Dプリンターの出現”は、プロダクト製品の製造現場においては加工速度や技術が向上するメリットがあるが、彫刻をはじめとする諸美術作品の制作においての3Dプリンター使用のメリットとは試作品の制作以外の他のどのようなメリットが挙げられるのだろうか。アーチストが自身の手を用いて形態(原型)をかたち作る行為を『受肉』と表現できうるとすれば、男性でも女性でも人は作品の苦しみも楽しみも享受することができたはずであるが、デジタルデータを加工し、3Dプリンターで出力を行う行為は、極めて物質的欲望である。ものを消費するスピードが加速度的に早まりを見せているが、この時代性は、感覚的な美術作品の制作のあり方にこれからどのように影響を及ぼしていくのだろう。「彫刻」とはまだ見たことのない形態を「いま・ここに」眼前化させる行為である。
保坂 航子 HOSAKA Kouko
福島県生まれ |
2016 |
武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻彫刻コース修了 |
現在 |
日本美術家連盟会員 |
[個展] |
2007 |
「南国の思想」 ギャラリー山口、東京 |
2014 |
「神話作用」 仙台アーティスト・ラン・プレイスspace B、宮城 |
2015 |
「沈思黙考」 仙台アーティスト・ラン・プレイスspace A・B、宮城 |
2016 |
4月 ギャルリー東京ユマニテbis、東京
(同10月, '17,
'18, '19,
'21)
仙台アーティスト・ラン・プレイスspace A、宮城 ('17) |
2017 |
「保坂航子展」 武蔵野美術大学彫刻学科伊藤誠研究室 madogiwa、東京 |
2020 |
「保坂航子展」 いりや画廊、東京 |
[グループ展] |
2008 |
「アートジャム・gift展」 ギャラリー山口、東京 |
2014 |
「線を積む Piling Lines」 FAL/武蔵野美術大学、東京 |
2015 |
「彫刻と対話法」 府中市美術館市民ギャラリー、東京 |
2016 |
「東京五美術大学連合卒業・修了制作展」 国立新美術館、東京
「仙台アーティスト・ラン・プレイス参加作家による作品展」 仙台アーティスト・ラン・プレイスspace A・B、宮城
「新制作展」 国立新美術館、東京 ('17, '18)
「第32回財団法人北野生涯教育振興会彫刻奨学金受賞者展」 日本大学藝術学部芸術資料館、東京 |
2017 |
「彫刻の五・七・五 Haiku Sculpture 2017」 女子美術大学女子美アートミュージアム、Joshibi SPACE 1900、東京 |
2019 |
「壁11㎡の彫刻展4」 いりや画廊、東京 |
[受賞]
平成15年度武蔵野美術大学造形学部卒業制作優秀賞
第32回財団法人北野生涯教育振興会彫刻奨学生受賞
[設置]
「horobi-na」 翠が丘公園、福島県須賀川市
「流れのなかに」 藤垈の滝公園、山梨県笛吹市 |
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「カフェのテーブル」
2021
ブロンズ
58.0×115.0×3.0cm
(奥)
「みどりこ(嬰児)」
2021
蛇紋岩
27.0×52.0×23.0cm
(手前)
「沈思より浮かびあがるイメージ」
2020
ブロンズ
6.0×25.0×21.0cm
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