ギャルリー東京ユマニテは昨年に続いて5回目となる飯嶋桃代の新作展を開催いたします。飯嶋は1982年神奈川県生まれ。2011年女子美術大学大学院美術研究科博士後期課を修了。 gallery αM(2014、東京/北澤憲昭氏キュレーション)、「第9回 shiseido art egg」資生堂ギャラリー(2015、東京)での個展、「新進芸術家選抜展 FAUSS 2016」O美術館(2016、東京)など精力的に発表。繊細な素材を使ったダイナミックなインスタレーションで注目を集める作家です。
飯嶋はこれまで古着や食器などの日用品を家型の白いパラフィンワックス(蝋)に封じこめた作品や、衣服のボタン、ネームタグ、毛皮、陶器などを用いて壁面や展示空間全てを覆いつくす大掛かりなインスタレーションを発表してきました。また、前回ユマニテでの展示には巨大な鏡が出現し、現実と虚構、日々を過ごす中で互いに呼応し、相反する社会と個人の関係性を美しい空間と共に作り上げました。
今回の新作は古事記にも登場する有名な説話「因幡の白兎」を〈疾患〉と〈治癒〉の物語として捉え、オブジェと映像で構成されるインスタレーションです。「因幡の白兎」は鰐鮫を騙した兎が鰐鮫に皮を剥かれ、苦しんでいるところをオオナムチがその治療法を伝授し、やがて傷が癒え兎は兎神となり、オオナムチとヤカミヒメが結婚することを予言するというものです。飯嶋はこの中で兎が皮を剥かれる痛みを伴う〈疾患〉を、イニシエーション(節目に行われる儀式)とし、それを経て兎神へと〈治癒〉、トランスフォーム(変化)する過程を通過儀礼としての観点で読み解いていきます。この視点は比較神話学者吉田敦彦によるものもあり、イニシエーションは出産、死去などの転換期、節目であり広い意味では病気、災害といった非日常的な試練を、リカヴァリー(Recovery)元に戻すだけでなく、今の最善の状態に転嫁することを重ね合わせて捉えていきます。
数年前から民俗学や民話に興味を持ち始めた飯嶋が、今回展覧会として初めて具体的なイメージの作品が展開されます。いにしえから様々な形でその地域に伝わる物語は、時を経て現代の日々の暮らしにも繋がる普遍的なものかもしれません。常に新たな視点と美しくも儚く、力強い世界を見せてくれる飯嶋。今回もお見逃しなく是非ご高覧下さい。
〈作家コメント〉
イナバノシロウサギの説話を、通過儀礼とみなす観点から映像とオブジェによるインスタレーションに仕立てる。皮剥ぎという〈修練−疾患〉を経て、兎が兎神に〈変身−治癒〉するストーリーは、治癒を一種のリカヴァリーとみなす視点を与えてくれる。テクストには、欧米に日本の物語を紹介するために明治期に刊行された縮緬本(ちりめんぼん)の一冊「THE HARE OF INABA」をもちいた。
>> 飯嶋桃代 略歴
〈以前の展覧会〉
飯嶋桃代展 IIJIMA Momoyo
「鏡とボタン―ふたつの世界を繋ぐもの」
2018.6.11(月)‐6.30(土)
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