向山裕(むこやま・ゆたか)は1984年大阪府生まれ。宝塚造形芸術大学在学の2005年、当画廊企画の若手作家を紹介する展覧会humanité
labで個展を開催。100号~120号の巨大なキャンバスに、実際には指先ほどの小さな熱帯魚や、頭と尾に分かれたウナギなどを精密なタッチでリアルに描き、注目を集めました。その後、韓国での個展やグループショウ、「高島屋美術水族館」、「美の予感」(共に髙島屋各店へ巡回)に出品。2012年には髙島屋(東京、名古屋、大阪へ巡回)で個展を行い、その卓越した技術によって描かれた、どこか愛着を感じさせる作品が多くの反響を呼びました。
向山が近年描くモチーフは、ウナギ、たこ、海ほたるなど海洋生物が多く見られます。向山は、気になった生物を入念に調べ、入手できるものは実際に飼って、その生育を共にします。例えば「うみほたる」は、実際にはゴマ粒くらいの大きさですが、顕微鏡で観察し、ついには解剖して内蔵や体のしくみを詳細に調べ上げ、キャンバスに描いていきます。それらは標本のようなリアルさで、作家の意思を殆ど感じさせない写実的な手法で描かれますが、何処か空虚な悲哀感と懐かしさにも似た愛着を感じさせます。さらに、一昨年の髙島屋での個展では巨大サイズのイカの骨や米粒をFRPで作った立体作品も発表し、新たな領域へ広がりを見せました。
これまで珍しい海の生物などを数多く描いてきた向山ですが、その興味は自然界とその生命の循環、殆どが短命もしくは一瞬で繰りかえされる美しくも儚い現象の不可思議さにあるようです。砂浜に打ち上げられたイカの亡骸、静かな海上に上がった水柱、今まさに孵化しようとする瞬間など、緊張感あふれる作品からはそれらの生命体と彼らから届けられる様々なメッセージへの畏敬の念が感じられます。
今回の個展は2年ぶりの新作展となり、100号の大作のほか油彩約10点、他にFRPなどで制作した立体作品も展示いたします。昨今注目を集める若手作家の中でも、高度な技術とインパクトのある作品で定評のある向山。期待の新作展を是非ご高覧ください。
尚、同時期に髙島屋各店へ巡回するグループ展『髙島屋幻想博物館』へも新作数点を出品しています。併せてご高覧下さい。
<作家コメント>
「砂の原野・霊告」
―― 海に出た、眩しい。波打ち際に、なにか赤いかたまりが打ち上げられているのが見える。そちらの方に近づいてゆく――
足元に、赤い大イカの胴体。ヒレがまだ少し動いている。濡れた表皮は、かつての水面の耀い夢に見ているように、色素泡を淡くざわめかせている。
まえに、何処かで会ったことがある気がする。周りには人も鳥もいない。
自然が、自分に何かを告げている。意味はわからないが、遠い祖先から繰り返し受けている、ある深刻なメッセージである。
海の方へ目を遣る。砂浜、遠く水平線までつらなる砂の原野。キスの群れが砂上を滑ってゆく。
>> 向山裕 略歴
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作家ウェブサイト
<関連情報>
グループ展 『髙島屋幻想博物館』
7月23日~10月6日 髙島屋各店巡回(東京、大阪、京都、横浜、名古屋、新宿)
新作3点を出品しています。詳細は各店にお問い合わせください。
<以前の展覧会情報>
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