村井進吾は1952年生まれ。多摩美術大学大学院修了後、数多くの個展、グループ展に出品し精力的に発表しています。近年は大分市美術館での大規模な個展、1996年からは茨城県筑波山麓を会場に、およそ隔年開催されている「雨引きの里と彫刻」に出品。彫刻と地域の在り方を野外彫刻展という場を通して提示してきました。さらに、2009年春に国立新美術館で開催された「アーティストファイル2009‐現代の作家たち」では、全長42mという大空間に黒御影石の作品群で、静謐な空間を作り好評を博したのは、記憶に新しいところです。
村井の作品はそのストイックな印象のせいか、まず石の美しさに心を奪われます。作品は黒御影石や大理石を掘削しただけの一見、簡潔極まりない形状をしていますが、それらの表情を丁寧に見ると所々に内部に思いを馳せる痕跡がいくつも見られます。村井は従来、石塊を分割し再度組み立てた作品を発表してきました。それは二度と内部構造を見ることが出来ない、見えない部分を想像するしかない作品でした。そのような中、近年は内部を隠すのではなく、外から全てが見える作品へと変化してきています。
物体である「石」に、ある構造を与えることによって、その作品はどのような見え方をするのか?さらに、闇の固体である石とはどのような物体なのか?その闇の内部を見てみたい、と村井は言います。
村井の作品は常に「石」本来が持つ、重量感や緊張感を湛えながらも、沸々と湧き上がってくる不可思議で愛おしくもあるその素材への探究心が十分に発露されたものと言えます。
今回は近年発表している表面を細かく削り取った「黒体」シリーズの新作になります。今春発表した「黒体1101」は高さ2.5mもの巨大な塔のような強い印象を与えるものでしたが、今回の新作は高さがわずか10cm前後。地を這い、地面を覆うようなその新作が、画廊の空間でどのような表情を見せるか楽しみな展示となりました。
新たな展開に期待が高まる今回の新作展。この機会に是非ご高覧頂けますようご案内申し上げます。
(参考文献)
2007年のギャルリー東京ユマニテの個展では、方形のエッジを面取りするように削り取った《破辺体》や、矩形の表面を基盤の目を刻むように細かく削り取った《黒体》という作品が登場する。それは単に石の内部を覗かせるという段階を超え、石そのものに迫り、石の本質を見極めようとする意識に突き動かされたものと解釈できる。村井は今、劇的な変化の最中にあるのではなかろうか。昨年の「雨引の里と彫刻2008」では《黒体》の大作2点が石材置き場に展示されたが、切り出されたままの石に対峙し、明確な造形意識によって際立った存在感を示したことを、特に付け加えておきたい。 |
「アーティストファイル 2009」
国立新美術館 展示風景 撮影:山本糾
installation view of Artist File 2009
The National Art Center, Tokyo
photo: Tadasu Yamamoto |
国立新美術館・福永治
「村井進吾」
(「アーティストファイル 2009」 カタログテキスト[pp02-04]より抜粋)
>> 村井進吾
略歴