富田菜摘は1986年東京生まれ。多摩美術大学油画科在学中の2007年に初個展を開催。以来、東京、名古屋、大阪など各地で個展を中心に発表を続けています。2009年にはシンガポールに滞在し、現地で集めた金属廃材や新聞紙などの素材で制作。シンガポールや香港のギャラリーで個展を行いました。その他、身近にある廃材を使ったワークショップ、店舗やTVスタジオのディスプレイなど多方面で活躍。2019年には廃車になった地下鉄車両の部品を素材に使用した幅9mのレリーフ作品「いのちの木」を制作し、大阪梅田の地下街に設置。2020年にはヤマザキマザック美術館、2022年には中村屋サロン美術館にて大規模な個展を開催するなど、現在最も注目される若手作家のひとりです。
富田の代表的な作品は、自転車やキッチン用品、電子機器などの金属廃材で作られたキュートで愛らしいカメやサル、鳥、恐竜など動物の立体作品で、大きいものは約2m、中にはキャスター付きの椅子をそのまま仕込み、上に乗って動かすことができる作品もあります。
富田が金属廃材の作品と並行して発表しているのが、新聞や雑誌の切り抜きを使った人物作品です。流行や社会現象など時代を表すメディアである新聞や雑誌で、その時々の人物像を発表してきました。今回は、1階と地下の2会場でそれぞれの作品群を展示いたします。
1階では「古き良きものたち」と題した動物作品の新作展を開催いたします。
古いミシンやタイプライターを使用した鳳凰、茶釜のガマガエルや花鋏の鳥、アルトサックスと羽釜を使用したバクなど、歴史が刻まれた様々な金属廃材のパーツを組み合わせて制作した表情豊かな動物の立体作品約15点を発表いたします。
〈作家コメント〉
一度役割を終えたものを生きものに生まれ変わらせたいという思いで、金属廃材で動物作品を20年ほど制作し続けてきました。
作品を見てくださった方から色々な廃材をいただくようになり、中にはとても古い骨董やアンティークと呼ばれるようなものもあります。
そういったものは、たどってきた歴史が表面に錆や傷として刻まれ、その姿からは凄みのようなものを感じます。
とても魅力的ですが作品には気軽に使いづらく、素敵な材料たちはその魅力を損なわないよう作品に生まれ変わらせられるタイミングまで寝かせていました。
最近になってやっと今ならできるかもしれないと感じ、生きものの形が発想できるまで材料と向き合いました。
大正時代からのミシン、骨董の茶釜、兜飾りなど、人々の思い入れの詰まった古き良きものから、沢山の味わい深い生きものたちが誕生しました。
地下で展示する人物作品は「密やかな棘」。
新聞紙を用いて制作した人物像には、その人物の特徴を表すような言葉が記事からコラージュされています。今回はその人物にとって“少しだけ自分を強くしてくれる特別な何か”にのみ色が使われた23点の新作を壁一面に展示いたします。
〈作家コメント〉
真っ赤なハイヒール、高級腕時計、お気に入りの口紅、大切な人からの贈り物。
他の人には分からないけれど、身につけているだけで
ほんのちょっと強くなれる 密やかな棘
落ち込んだ時ほど、強くあるための武器を身につける。
自分だけのお守りであり、その人のシンボルでもある。
そんな密やかな棘を誰しも持っているのではないだろうか。
常に現代の世相をリアルに見つめ、造形の精巧さや観察力にますます磨きがかかった富田菜摘の新作を今回もお見逃しなくぜひご高覧ください。
>> 富田菜摘 略歴
〈前回の展覧会〉
富田菜摘 TOMITA Natsumi
「日常に非ず」
2023.4.10(月)‐4.28(金)
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