菅野由美子は東京造形大学卒業後の1986年「シドニー･ビエンナーレ」、1989年「第3回アジア美術展」など、国内外の展覧会に参加。当時はコンセプチュアルな立体作品などを発表していましたが、1992年の個展を最後に制作活動を休止。その後、15年ぶりとなった2007年の個展以降は、それまでとは異なり身の回りにある器を丁寧に描く古典的な油彩を発表しています。

中世ヨーロッパの静物画を彷彿とさせる均一に塗られた背景に、菅野が様々な場所で出会った器が茶事の見立てのように物語に沿って選ばれていきます。よく見ると、それらはどこか擬人化された肖像画のようであり、光線も計算され、ほぼ実物大に描かれた器が配された画面は、淡々と過ぎていく平和な日々の一場面のようですが、その静けさの奥にある力強い存在感によって、鑑賞者自身の内面へと導かれるようでもあります。菅野の作品はストイックであるがゆえに、小さな画面から無限の広がりへとイメージは膨らんでいきます。さらに近年は、均一だった背景がより重要な要素としてどこまでも続く迷宮のように描かれ、不可思議な存在感がより際立ってきました。

今回の新作ではさらに複雑な画面構成が見られ、実物大の器と同じ画面に切り貼りしたような小空間が描かれ、その中では器が縦長や横長にゆがめられ、見方や見る人によって世界が変化する様を写し取っているようでもあります。2年ぶりとなる本展では、油彩の新作13点を発表いたします。身近にある何気ない器をモチーフに様々な思いが広がる菅野の世界。今回もお見逃しなくぜひご高覧ください。

〈作家コメント〉

このところ思い通りにならない事が続いたので、よく空を見上げてぼーっと眺めた。首の角度を少し変えるだけで見えるものがガラリと変わることにいつも驚きながら。ただでさえ見たいものしか見てないのが人の目である。見えているものを見るだけでは足りない。その中に隠されている秘密を探そう。

そんなことを思っていたら、器が伸びたり縮んだりしてしまった。

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〈前回の展覧会〉

菅野由美子展　SUGANO Yumiko
2021.10.4（月）‐10.30（土）